なにやら妙な研究してる・そういう噂~環境科学&農生態学の物質循環研究者の日常~
 農学・生態学系の物質循環或いはマテリアルフローの研究者として、自分の範疇にある元素やモノは勿論、その周りに何があるか、は押さえていて当然であると思う。私自身は炭素・窒素・リン・カリウムを標的にしてきて、排出(Emission)部分は取り着きやすく、特に窒素は土壌肥沃度の指標であり、作物生産の第一の制限要素であり、ゆえに土壌学・肥料学でのセントラルドグマ的な部分である。そのため、日本で農学関係では窒素に関する研究は非常によくされてきたし、絶対数が少ない分野でも研究者の数は圧倒的に多い。次いでの炭素も環境変動の関係でそれなりに人は居る、が、リンになるとぐっと少なく、カリウムになるとしょぼしょぼである。
 一通りの事は勉強したし、出前授業でも小中高生相手に話した身ではあるが、土の世界、肥料の世界のモードは世の中に基本知られていない、と言うのが私の持つ感触である。なので、その関係の良い入門書があれば、と思っていたが、本書はその最適な本だと感じ入った。そして、基本純成分で扱ってきたが故に知らなかったこと・・・化合物の形態では窒素・リン・カリウムの3要素に相性がでる場合がある、と言うのは発見だった。
 件数・面積こそぐっと増えてきたとはいえ、有機農業では日本は食っていけない。と言うのも、収穫に必要な効きの悪い有機質資材を使う事は、余程計算しない限り、土壌中の3要素のバランスは破たんする(実際は与える資材からしてバランスはなってない)上、量的に足らない。と言うのも、以前農水省の取ったアンケート結果のデータベースを解析していて、同じ収穫量を得るためには、純成分で化学肥料の10倍かそれ以上の堆肥が必要だからである。本書では、家庭菜園なりプランター、肥料袋などを使ったガーデニング以下のスケールでの有機栽培見たいのも紹介されている。それはいいことだが、ではその2,3桁上の面積で同様に出来るか?と言うと、それは無理。夢を砕かない書き方だな、とも思った。

 個人的にはこういうアウトリーチ的な感じで初歩を書いた本の良し悪しでいえば、本書は非常によく書けている良書だと思うし、土と肥料を知りたい人にはぜひ勧めたいと思った。こんな感じで今の本の原稿を書ければ、良いのだけど、書き手には難しく敷居の高さに思えた。

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【2016/02/28 22:23】 | 本・読書
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