なにやら妙な研究してる・そういう噂~環境科学&農生態学の物質循環研究者の日常~
中国人民解放軍の実力 (ちくま新書)中国人民解放軍の実力 (ちくま新書)
(2012/11/05)
塩沢 英一

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 中国の核の鍵は誰が持っているか判らない、と以前雑誌「航空ファン」にあった。恐らくは中国生まれで日本に帰化したライターが軍の高官から聞きだした話、中国のことは中国語がわからないとチンプンカンプンだ。本書では中国の軍高官を中心とした人物の著書、論文を豊富に引用し、それを読みと訊評価する形で進む。もちろん中国語で書かれている本であるが、原典に当たっていることと緻密な解析と取材に寄る裏取りで信頼のおけるオシント本となっている。軍の構造、党との関係、ソ連に見られた人民委員のようなシステム、複雑なことと戦略として国内、党から見ても透明性が低い軍隊とはどんなものか、その実像を随分と見せてくれているから、資料としての価値は高い。軍隊は制度と人が動かすもの、と考えれば、巷にある自衛隊vs人民解放軍始め諸国軍と言う兵器厨本より、戦略レベルで余程納得のいくものがある(自民党議員だって自衛隊と軍隊の違いを指摘できる人は少ないんじゃないかな?石破茂はできるけど)。
 中国の軍事費は党にとってすら不透明であるというが、私の経験からもそれは至極納得のゆく話である。中国は1997-8年以前にはまともな農業統計が無かった。刊行はされているが数字に信頼は置けない、と言うのを聞き、なるほど1995年から2000年で耕地面積が30%も増えその後一定なのはその所為かと納得がいった。それを軍産複合化のために総計を出すのが農業と言う単一セクタでないだけにひと苦労な状況と、先端こそ先進国と比肩する研究能力こそあれ(これも実感である)、底辺は発展途上の始まりである。
 もちろんそれも戦略のうちではあるのだろう。実態がわからなければ、日本語で言う「脅威」を煽り、孫子の兵法にある通り最高の方法で敵軍を屈服させることが出来る「かもしれない」。しかし、眠れる獅子・清が眠ったままの獅子で終わったようなものかもしれない。
 だがこの状況は日本を振り返って自衛隊のありようを見直し考えた方がいい。高出力デジタルトランシーバーが全隊員に回るには程遠く、アナログトランシーバーもろくにない、航空偵察能力に象徴されるリアルタイムISRは無に等しい、装備にJDAM、レーザーJDAMはあっても遠隔GPS測量機やレーザー照準器がない、装甲救急車もモルヒネもない・・・機能体として法制度的にも装備的にも無力だ。

 国をどう守るか、その戦略はどうも中国の方が優れているのか?文民統制はないけど、と言うのが私の感想。

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【2013/01/06 20:46】 | 本・読書
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